
心境の変化
私は脊髄小脳変性症という病気を患っています。
これまで病気のことは家族、親戚、親しい友人などのごく限られた人達にしか明かしていませんでした。
理由は簡単です。
めずらしい病気なので病名を伝えても必ず聞き返されるし、どんな病気なのか説明しなければならないことに居心地の悪さを感じていたからです。
この病気と付き合ってもう10年以上になります。
発症当初は健常者と区別がつかなかったはずです。
そんな理由もあって、病気であることをあえて伝えることはしませんでした。
ところが最近は、歩く姿がもう普通ではありません。
まだ自力で歩くことはできますが、よたよたしていてまるで酔っ払いです。
病気を隠すことに何の意味があるのだろう。
こんな私でも人の役に立つことがありはしないか。
そんなことを思うようになって発症から現在までの自分を振り返ったとき、あることに気づきました。
誰でも同じことをするのでしょうが、病気についてインターネットで検索をするのです。
治療法はないか、同じ病気の人はどうしているのか、何か新たな情報はないか。
何度も検索しているのでそんなに代わり映えしない結果なのは分かっているけれど、やはり検索してしまうのです。
それなら私が自らの症状を発信すれば、同じ病気で悩んでいる人の役に立つのではないかと考えたのです。
治療法の知識や新たな情報は私にはありませんが、「同じ病気の人はどうしているのか」ということだったら自分自身のことを話せばよいのだからと。
そういう心境の変化がこのサイトをつくるきっかけとなりました。
脊髄小脳変性症とは
ここは公益財団法人難病医学研究財団の「難病情報センター」というサイトから引用します。
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4879
歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らない等を症状とする神経の病気です。動かすことは出来るのに、上手に動かすことが出来ないという症状です。主に小脳という、後頭部の下側にある脳の一部が病気になったときに現れる症状です。この症状を総称して、運動失調症状と呼びます。この様な症状をきたす病気の中で、その原因が、腫瘍(癌)、血管障害(脳 梗塞 、脳出血)、 炎症 (小脳炎、多発性硬化症)、栄養障害ではない病気について、昔は、原因が不明な病気の一群として、 変性 症と総称しました。病気によっては病気の場所が脊髄にも広がることがあるので、脊髄小脳変性症といいます。
脊髄小脳変性症は一つの病気ではなく、この運動失調症状をきたす変性による病気の総称です。よって、その病気の原因も様々です。現在では、脊髄小脳変性症の病気の原因の多くが、わかってきています。しかし、一部まだ原因の解明されていない病気も残されています。これらの病気の解明には多くの患者さんのご協力を必要とします。
なお、足の突っ張り、歩行障害が主な症状である痙性対麻痺も、一部の疾患では小脳症状を呈することがあるため、我が国では行政上は脊髄小脳変性症に含まれています。
この説明にもありますが、脊髄小脳変性症は一つの病気ではないので症状の軽重や進行速度などを含め人それぞれ千差万別です。
私の場合は遺伝性のものでSCA6という遺伝子別の番号が付されています。
症状としては、圧倒的に歩行時のふらつきが挙げられます。
立ち上がると常に頭がふわふわぐるぐるしていて、ときおり遠くへ持って行かれるようにグラッとします。
この症状さえなければどんなに気持ちが救われるかと思います。
手が震えるという症状はありませんが、細かい動きは思いどおりになりません。
頭では分かっていてもうまい具合に動いてくれないので、クッソ!とつぶやいてしまうこともあります。
足も操縦困難です。
歩くとき、どこに足をつくべきか分かっているのに、ねらいどおりの場所へ持っていけません。
だから階段を降りる行為は恐怖心が強く、日常生活における最大の苦手項目です。
口もダメです。
頭でしゃべる内容を整理し、いざ口に出そうとしても、ろれつが回らずスムーズに言葉が出ません。
酔っ払いがくだをまいているような話し方になってしまうので、恥ずかしくておしゃべりすることや電話をかけることが嫌いになりました。
このような症状に至るのに10年経過しています。
ゆっくりゆっくりと症状が進行し、そういえばこんなことが出来なくなった、あれ?これも出来ない、ちょっと前まで出来ていたのにと悲しい発見をしています。
こんな環境にあります
私は現在66歳です。
症状を自覚し、SCA6と診断を受けたのは11年前の55歳でした。
父親は脳腫瘍のため52歳で他界しています。
ですから50歳を過ぎて父親の亡くなった年齢に近づくにつれ、自分も脳腫瘍を発症するのではないかと心配していました。
その52歳を過ぎても健康に異常がなかったので、密かにホッとしながら過ごしていたのを思い出します。
母親はそれこそ大病のオンパレードです。
子宮筋腫、乳癌、腫瘍随伴性小脳変性症、急性心筋梗塞、脳梗塞など。
つまり、遺伝という面から考えると両親ともに問題だらけなのです。
父親も母親も「がん」を患っているので、医療従事者に言わせると私は「がん」になる危険性がとても高いのだそうです。
実は私の妻は看護師です。
ですから、私の体調についてちょっとでも異変があると「がん」ではないかと疑います。
「がん」に対するアラートが極めて敏感に設定されているのです。
私が「ちょっと頭が痛いんだよね~」などと言おうものなら、すぐに脳腫瘍を思い浮かべるようです。
そんな状況なものですから、身体の不調を訴えると有無を言わさず病院へ行くよう指示されます。
やはり病気は早期発見が重要で、その後の明暗を分けてしまうことは母親の脳梗塞発症の際に経験済みです。
脊髄小脳変性症の診断を受けたのも、妻のセンサーに引っかかったことがきっかけでした。
私の母親がいくつもの大病を患ったことは先に書きましたが、いつも救ってくれたのは妻でした。
妻のセンサーが作動し、すぐに対処できたからこその命だと思います。
私の場合も、妻のセッティングで受診し専門医の診断を受けることができました。
脊髄小脳変性症の治療
診断を受けたことまではいいのですが、さて治療はというとなんとも希望が見えません。
難病であるがゆえに、積極的な治療方法も効果的な治療薬もないのです。
小脳の萎縮という症状を治療するために手術という手段はありません。
小脳萎縮により体幹機能に問題があるなら、バランスの正常化に効果的な投薬をするしかありません。
小脳萎縮により運動機能に障害があるなら、身体がスムーズに動くよう補助する投薬をするしかありません。
つまり病気の原因を除去する手段は、残念ですが現在の医学では見つかっていないのです。
私の主治医も話していましたが、現在の投薬は対症療法でしかなく病気の根本治療にはなりません。
脊髄小脳変性症の患者数は全国で3万人を超えるとされています(難病情報センターによる)。
世界では現時点で信頼できる統計はないそうです。
日本の人口は1億2千万人を超えていますが、そのうちの3万人ですから割合としては微々たるものです。
新型コロナウイルス感染者3,380万人(2021/1/15~2023/5/8:厚労省)とは比較になりません。
ですから費用対効果を考えると、新薬の開発には期待できないのです。
何か希望はないものかと思い、かつてWeb検索でこの病気の治験の有無を探したことがあります。
臨床試験支援業務を行っている株式会社JCVNサポートという会社のホームページにたどりついたのですが、「現在 脊髄小脳変性症(SCD)に関する治験の実施はございません」とのことでした。
難病が難病たるゆえんは、こういうことなのです。
治療するために研究してあげたいけれど、優先順位も低いし、投入費用も回収できそうにないからゴメンね。
そういうわけで、通院は続けているけれど「経過観察」で放置されているのが現状です。
でも、すべてのことに通じると思うのですが、諦めたらジ・エンド。
リハビリテーションと言うには大げさですが、身体機能を維持するために運動を続けています。
ストレッチと筋力トレーニングで1時間、ウオーキングで1時間。
このメニューを月・水・金で継続するようにしています。
もちろんサボることはありますが、毎日の日課にするよりは精神的に余裕があります。
いま私は「ドラッグ・リポジショニング(既存薬再開発)」を密かに期待しています。
これは既存薬や開発中もしくは開発中止となった医薬品・化合物を活用し、当初想定していた疾患とは異なる疾患の治療薬として転用する開発手法のことです。
もっと簡単に言うと既存のある疾患に有効な治療薬から、別の疾患に有効な薬効を見つけ出すことです。
AI技術の進化に伴い、「見つけ出す」という作業が格段にスピードアップするのではないかと考えるからです。
特に新潟大学を中心とした研究グループによる、脊髄小脳失調症6型(SCA6)に対する新たな治療薬候補「L-アルギニン」については、一定の効果があるとされつつも有効性の評価に重要となる統計学的な有意差はなかったとされていますが、今後の進展には期待せざるを得ません。
立ち位置
このサイトは、もともと自分自身のメモ帳というかスクラップブックのようなものでした。
パソコンをいじるようになって30数年ですが、その間の経験を記しておきたくて始めました。
だから今は脊髄小脳変性症との関わりをクローズアップしていますが、以前の記事は退職後の壮年おじさんが普通に書きたくなるごく一般的な文章だったに違いありません。
サイトをリニューアルするにあたって以前の記事には極力目を通し加筆訂正することとしました。
それでも文体や文脈が乱れまくっていることについては、私の文章能力が至らないがゆえですのでどうぞご容赦ください。
ともあれ、この病気に関してはできる限り具体的かつ客観的に記述するよう心がけます。
それが、Web検索でここまでたどり着いた方々への礼儀だと考えるからです。
もう何にもできない私が唯一社会貢献できるのは、同じ病気で苦しんでいる方々に「ちょっと息抜きができる瞬間」を作って差し上げられるかも知れないということです。
同じ病気でも程度に軽重があることは理解しているつもりですが、言葉の選び方ひとつで誰かを傷つけてしまうことがあるかも知れません。
そんなときはどうぞご指摘をいただければと思います。